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細川頼之記
貞治七年二月二日、頼之書内法三箇条、為近習者之戒、又令南都教司盛政入道常近侍習礼義教文学、
頼之、将軍〈○足利義満〉近習の人々、姦惡の人あつて、幼君の耳目おまよはし、傍輩の中おも言さまたげんことお恐れて、内法三箇条お作て、在是掛殿中、以諸人の為戒、
其掟雲
一御近習の人々、以賤姦心仰に随んが為に、不善お以善なりと言上すること、大きなる曲事也、又 為貪当座の賞、邪曲徒事お申し進ること無道至極せり、於傍輩他お惡道に引入する族、於公儀 大姦不忠の人也、隠謀の大罪に同ぜん物か、且は天下お乱すの端也、且は幼君の怨敵なり、何事 か如之哉、可諫不諫、猶尸位也、まして同ぜんおや、邪の徒事お進奉らんおや、堅可禁之、自今以後 如是の族あらば、早不依親疎見聞次第に、侍所に可訴、是猶大忠也、其賞何ぞ浅からんや、並彼於 姦人、依軽重任先代法可被罰之事、
一私の遺恨お為達、公儀お借り吹毛疵お求、言お巧にして、密に奉訴幼君事、兼ては又一身お立ん が為、他の難非お顕す事、附幼君の仰に随て、不善の人お善なりと言上仕、善なる人お不善と申、 大善お隠して小惡お言上仕、大惡お隠して小善お言上す、加之上部には巧て和と愛と直とお 偽り、内には貪と欲との深きお隠す、小佞は小賢おまねせり、大佞は大賢おまねせり、幼君お邪 路の大穴に堕入奉るの大禍有、政道のの邪魔たり、又は天下大乱の端、国お亡すの根なり、是お佞 人と雲なるべし、如是人又隠謀の大罪に同ぜんか、此お見聞し、て侍所に訴る者、大忠たるべし、 将又彼佞人に於ては、大に罰すべし、小佞小姦おも閣事なかれ、小惡お不禁大惡発り、小善お不賞大善滅すと、御近習の人々此旨お存べき事、
一私用お専とし、遊楽お事とし、又は為人謀て忠不在やと雲て、傍輩の用お重くし、奉公、の行お怠 る事、大なる僻なり、凡諸文お学み諸芸に達んとすること、其用何事ぞや、其職に居て其行お能 成さんとするに有、行二学の徳用なく、芸の用なくんば、何にかはせん、まして行に怠在んおや、 公お立て、私お次にするは、古の道也、公お背て、私お立るは無道なり、国乱の根なれば也、益して 遊楽お専として、職の行お次にせん者は国賊なり、何ぞ公の大恩お受て、其行怠てや、又公恩お 報じ忠お成す事、父母に不替は右の道也、益して傍輩おや、為人者誰力此理お不知や知ながら角あらん者、侈の頂上する物也、傍輩に主の恩お忘る、侈の成す所也、又身に文才の芸の功なく、 忠なふして大職お望、大国お領せんことお思ふ、此過分の奢侈也、諸人お悩乱せしむるの端也 天下の大乱の根也、幼君の威お破り、国家お亡すの逆臣也、不忠、不道、不知恩、其大罪一に非ず、如是人其罰可重、此お見聞して侍所に訴る者は、大忠たり、貴賤上下によらず、恩賞最深かるべし、 忘失することなかれ、付無位威貴に身お厳り、婆娑羅お好む、是又過奢と慢となり大に可禁之 事
右条々堅申定給ぬ、若違犯の輩於有之者、貴賤お不論、罪禍可順法者也仍掟如件
貞治七年二月二日 武蔵守判