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文廟令
文廟薨御之節御遺言之趣
不肯之身、東照宮の神統お承しよりこのかた、天下の政事常に神徳に嗣ん事お以て心とす、然るに在世の日短くして、其志の遂ざる事、今に及でいふべき所おしらず、古より主幼て国危き代々お観るに、其世の人、権お争ひ党おたて、其心相和らがずして、相疑によらざるはなし、胡越の人も、舟お同くして水お渡るに、其心お一つにし、其力お共にする時は、風波の難おもわたるべし、況や今の世の人、当家創業の後、治平百年の間に、相生れ相長となる事、誰かは東照宮の神恩によらざる者あるべき、人々其神恩に報ひ奉り、世の人の為お存せば、古の主幼て国危き代々の事共お以て、深き戒とすべし、若其志なからんにおいては、当家の危難といふのみにあらず、猶是天下人民の不幸たるべし、凡天下貴賤大小よろしく相心得べき事に思召者也、
正徳二年十月九日 御黒印