総見記

十二

公方家御野心事同信長御諫書事
近年、公方〈○足利義昭〉は、信長に対し、ひそかに野心おさしはさまる、〈○中略〉信長公も内々此事、御存知有といへども、しらぬ振にもてなし給ふて、隻忠節の誠お尽し、諫言お奉られけり、されども曾て御承引なし、其状に曰、
言上条々
一御参内之儀、光源院殿御無沙汰に付而、果而無御冥加次第、事旧候、因茲当御代之儀、年々無解怠 様、御入洛之刻より申上之処、早被思召忘、近年御退転無勿体存候事、
一諸国御内書お被遣、馬其外之物、御所望之体、外聞如何候之間、被加御摎慮猶存候、但被仰遣候は で不協子細者、信長被仰聞、添状可仕之旨兼而申上被成其心得之由候つれ共、今者左も無御座、 遠国へ被成御内書、御用被仰儀、最前首尾相違候、何方にも可然馬抔、御耳に入候者、信長馳走申、 進上可仕之由申旧候き、左様には候はで、密々直に被仰遣儀、不可然存候事、〈○中略〉 月日 弾正忠平信長
とぞ有ける、