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窻の須佐美追加

紀伊の先公〈○徳川頼宣〉は、智勇抜群なりしうへ、諫お納事江海の如なりしとぞ、年盛におはせし時にや、刀おためしみむとて、刑勠の有し時出給て、手自坐袈裟お試給ふに、いとも快く切しかば、喜悦まし〳〵、那波道円御側に在しに、何といさぎよからずや、かゝる剣も切る人も漢土に有べしやと有し時、道円剣は干将莫邪など如此なるべし、人は傑紂即其人也と申しかば、御気色あしく、其儘帰入給しが、其夕使お給りて、今日の事誤なるよしお思ひ知りたりと有て、其後は事無りけり、君臣皆誠に忠信なりしとぞ覚る、道円子に対して常に、誡しは、乱世には臣は君の為に死する事有、太平の世に在ては、改めて死する事お忘べからずと有しとぞ、