[p.0283]
吉備烈公遺事
一寒夜に橘お食しさせ給ふ時、侍医の冷たる物いかヾ候や覧と申せしに、やがてさし置せ給ひしが、後に危き事も有けるよと、くり返し独言仰けるお、侍せし女房の、いかなる事にやと問まいらせしかば、さればよ、先にしか〴〵の事有き、予〈○池田光政〉も夫ばかりの事はしりぬといはんとせしが、いはでやみたりき、もしさいはんには、是より後誰か予お諫る人あらん、彼一言にて諫お拒むの主となりぬべかりしお、いはざるは危き事の至極也と仰ける、