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守国公御伝記

世子〈○松平定信子定永〉年十七の頃、質問し玉ひし時、筆とりて答へ玉ふ、心のひろくなるべき事お問はせ玉ひぬ、すべて人主の貴ぶ所は、諫に従ふの一つ也、過ちなきお貴とせず、過おあらたむるおたふとしとす、朝夕言行あやまちあらば諫なん、いさめなば水のひきヽに流るヽ如く、たヾちに用ひなん、かヽればいふものたのしみ、猶ことお奉る也、さあらば言行欠ることなくならなんかし、かくいはヾ、あしからん、かくなさば、いかヾあらむと、心おくるしめず、あしくば諫むべし、諫めなば、用ひなむとのみおもひ玉へば、心もひろく、醴もゆたかにして、屋漏にはぢざる所にも、つひにいたりつべし、