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烈公間話
一同青木民部、まから〈真柄歟〉お討取被申よりも向上に被存候は、牢人にて今川家に武者執行の士多く、甲州勢出と聞き、民部一同に三拾人計かけ出るに、新坂の辺道に有之銀杏木の見ゆる迄行く時、山上に大物見のごとく、三百人計り出る、何とぞ引取べきと、何れも申せども、民部曰く、引色見せば猶敵可慕、十死一生の戦お待ち戦ふ内に、民部大の男と組み、山の下へこけ落ち、銀杏木のきはえ落付候時、民部上に成り首お取る、又外の者も二人して敵一人相討にす、其内に味方加勢来て、敵引取也、猶も初め同時に来る味方の内も、討死多しとなり、今川家より右の褒美として、民部に金子一枚給ひ相討に敵討たる士には、金の竜のかうがひお二人に一本宛給と也、民部常々武辺の咄不致人の由、右は青木先甲斐守入道丹山の父なり、実は伯父なり、実父は輝政公御内に被居由、此事諸人は引取申べきと雲に、青木一人被申は、引取ならば附けられ、一人も不残討るべし、こたへて戦はんと申す一言、大なる誉れなり、其上に功名有る故弥手柄也、