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安斎随筆
前編六
きんちやうして誓 土佐国儒士箕浦右源治問雲、武士誓きんちやうすると雲ふ事は如何、貞丈答へて雲、大小刀おぬいて打ち合せて誓ふ事なり、又問雲、此事古代よりありや、答曰、古書に所見なし、信長秀吉の頃以来、武士の大小お帯する風俗也しより、其の事ある歟、又問雲、きんちやうと雲ふ文字は如何、答へていふ、古代此の事なし、漢土にもなき事なれば、可然字もなし、大小の刀お抜き、両刀お打ち合する事なれば、金打(きんちやう)と書くなり、金と金とお打ち合するといふ義なり、亦問、金打する意は如何、答雲もし誓約に違はゞ、如此大小刀お打て打折りて、二度大小お帯せざる身と成るべしと誓ふ事なり、