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義経記

土佐房よしつねの討手に上る事
土佐申けるは、かやうに人のむじつお申候においては、わたくしには、申ひらきがたく候、御めん蒙り候て、起請文おかき候はんと申ければ、判官、神はひれいおうけ給はずといへば、とく〳〵起請おかけ、ゆるすべしとの御諚にて、熊野の牛王七まいにかゝせ、三〈○三、判官物語作一、〉枚は八幡宮におさめ、一枚は熊野に納、今三〈○三、判官物語作六、〉枚は土佐か五たいにおさめよとて、やきてはいになしてのみにけり、此上はとてゆるされぬ、土佐ゆるされて出ざまに、時刻うつしてこそみやうばつも神罰もかうふらめ、こよひおば過すまじ物おと思ひける、宿へ帰りてこよひよせずば協ふまじとて、各ひしめきける、〈○中略〉土佐おからめて参りて候と申ければ、大庭に引すへさせ、えんに出させ給ひて、いかに正じゆん、起請はかくよりしてしるし有ものお、なにしに書たるぞ、〈○下略〉