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花月草紙

友に交る道は、いかなる事か心得べきといふに、友はその所長お友とすべし、ふるきこと好むには、そのことに友とし、武技このむには、それに友とし、歌によむものには、その道に友とするそよき、さるに歌とてもこのふりはあしかり、かれにまねび給ふは、ひがことなりなどといふにも及ばじ、たゞ交りてこそあるべけれ、古にいふ管鮑の交といへども、このふたりおなじ徳、おなじ心よりしにもあらじかし、よの中に同じこゝろの人といふものは、いとまれなる事なるべし、たゞわが好めるかたに引きいれんとするもうるさし、ごのひと、このところは長じぬれど、こゞはいとみじかし、そのみじかきところお、引きのべんとするはいとくるし、さ思ふわれも、またそのみじかきところあるものお、ことに思ふこと、みないさめものせんとするお、かの信と思ふはたがへりけり、交るがうちにも知己のひとは、いとまれなるものなり、それらよくことばお求めなば、もとよりいふべし、されどしば〳〵すべきにはあらずかし、浅き契りの友なりとても、友といふうちならば、そのひとのうへの存亡に、かゝはる計のことならばいふべし、すべてしひてかくせん、かくすくひてんと、まげてもと思ふは、みな中道には背けりといはん、たゞその所長お友とすれば、まじはりがたき人もなく、われに益なき友もあらず、かの友によてわがかたのみだれんとするは、皆その短お友とする故なりと、こたへしものありきとや、