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藩翰譜五
板倉
勝重〈○板倉〉しきりに職お辞しけるに、将軍家今暫くかくて候へ、いまだ女に代りて、此職おおさむべき人なしと仰られて、御許あらず、なほ請ふ事止まざれば、去らば女に代るべき人お選みて薦めよ、いまだ其人お得ずと仰下さる、勝重都に候ひて、多くの御家人の事、いかで知るべき、此程の人の中に、などか其人のなかるべき、よく人々に御尋ねあるべきにて候、さりながらなほも勝重に申せと侍らんには、子にて候周防守重宗は、密夫の首きるべき者に候はず、若し彼お以て、父が闕に補せらるべく候やと申ければ、将軍家大に悦せ給ひ、周防守重宗お召して、京職に補せられ、勝重御免お蒙る、重宗辞し申けれども、子お知るは父に若ずと雲事あり、女が父の薦めにてあれば、辞する処あらじと、仰下されしかば、力及ばず、重宗なく〳〵父に向ひ、重宗如何で此職に堪へ候べき、なさけなうも御推挙に預り候者かなと、怨みかこつ、勝重打笑うて、おことは世話おしり給はぬよな、爆火お子に払ふといふ事は、此父が事に候ぞと答へし、