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常山紀談
十八
覚兵衛〈○飯田〉雲けるは、我一生、主計頭〈○加藤清正〉にだまされたり、初て軍に出て功名しける時、朋輩多く鉄炮に中りて死しけり、危き事よ、はや是までにて、武士の仕へはすまじきとおもひたるに、帰るやいなや、清正時おすかさず、今日の働神妙いはんかたなしとて、刀お賜りき、斯の如く、毎度其場お去ては、後悔すれども、主計頭其時おうつさず、陣羽織或は感状おあたへ、人々もみな羨みて、ほめたてたりしゆえ、其にひかれて、やむ事お得ず麾お取、士大将といはれしは、主計頭にだまされて、本意お失ひたるなりと、忠広没落の後、京に引籠り、再仕お求めずしてありける時、語りけるとかや、