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武功雑記

彦左衛門〈○久松〉事、大猶院様〈○徳川家光〉の時に、奥の御門番仰付らる、寿林尼の下人お、夜中に急用ありて、出させらるヽに、彦左衛門いださず、下人寿林の事お、かうにかつぎていふ、彦左衛門、おれは寿林と雲やつおしらずと雲、寿林此由お聞て、御前にて委細申上げ、あのやうなるもの御番お致しては、奥方にめしつかはるヽもの、急用に通路お不得、近比迷惑なる儀と雲ふ、御意に、其方は久松に逢たかと被仰、いやと寿林申上る、御意に、それは仕合なり、其方逢たらば、危き目にあふべきに、寿林、左様のかた意地ものに、御門番被仰付候は、いかヾと申上る、御意に、あれはあのやうなるによき事があると被仰候由、