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折たく柴の記

戸部〈○土屋利直〉は、年ごとの八月には、知り給ひし所の、上総国望陀郡に有るにゆきて、其十二月の半には帰り給ひき、その帰り給ひし後には、かならず父〈君新井君美父〉にておはせし人お、召出し給ひ、人おとほざけて、留守の事お問ひ給ふに、年毎に申すべき事もなく候ひきとのみ、答申さる、かくて年経し後に、我家小しきなりといへども、留守にさぶらふ者ども、其数なきにしもあらず、多くの年月経る内に、いかでか事なくてはあるべき、それに年ごとに、申すべき事も候はずといふ事、心得られずとのたまひしに、大事おば速に注進し、小事おば、留守の事なれば、人々と議定して、事決し候ひぬれば、其余某が申聞べき事は、いまだ候はずと答申さる、そののちも上総より帰り給ひし時には、必ず召出し給ひ、かしこにおはせし程の事など、物語し給ひて、時移りし後に、暇給はりて退き出づ、留守の事とひ給ふ事、おはせざりきと宣ひき、