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平家物語

忠のりの都おちの事
薩摩のかみたゞのりは、いづくよりか帰られたりけん、さぶらひ五騎、わらは一人、我身ともにひたかぶと七騎取て返し、五条の三位俊成の卿のもとにおはして見給へば、門戸お閉てひちかず、〈○中略〉俊成の卿、其人ならばくるしかるまじ、あけて入申せとて、門おあけてたいめん有けり、事のていなにとなう物あはれ也、〈○中略〉さつまのかみ〈○中略〉さちばいとま申し(○○○○○)てとて、馬に打乗り、かぶとのおおしめて、西おさしてぞあゆませ給ふ、三位うしろおはるかに見おくつて立れたれば、ただのりのこえとおぼしくて、前途程遠、思ひお雁山の夕の雲に馳と、高らかに口ずさみ給へば、俊成の卿も、いとゞあはれにおぼえて、なみだおおさへて入給ひぬ、