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行旅は又羈旅と雲ふ、上古は交通甚だ不便にして、且つ旅宿の設備お欠きたりしかば、多くは山野に露宿し、糧食お負戴して飯お炊くも亦路傍に於てせしが、孝徳天皇の時、令して旅人の為に、時弊お矯正せり、駅伝の制、定まりし後も、仍ほ公用以外の人には、多く其便お欠きたりしが、道路漸く開通し、且つ交通に関する設備も亦益〻発達せしかば行旅の難易亦往昔の比にあらず、
凡そ行旅お為すには、危害甚だ鮮からざりしお以て、古来旅中の安全お神祇に祈請し、幣帛お奉る等の風ありき、事は神祇部祈禳、幣帛両篇に載せたり、又旅人の発足せんとするや、親族朋友等、祖宴お張り、又は衣服、調度、詩歌等お贈与し、或は便宜の地に見送り、以て惜別の意お致す、之お餞と雲ふ、餞はうまのはなむけと雲ひ、後には単にはなむけとも穏す、而して旅人の始て途に上るお、門出、若しくは鹿島立等と称し、旅人の到著し又は帰著する時、途に迎ふるお坂迎と称せり、
行旅の事は、駅伝に関聯する所多きお以て、政治部駅伝、宿駅両篇お参看すべし、