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日本行脚文集

行脚の覚悟として、自戒自慎の誓語して首にかけし条目、
一不惜身命お思定、今日切の境界、無常迅速夢幻泡影忘るまじき事、
一色欲、身欲、名聞欲お可離事、附駒慢心可慎事、一五戒勿論也、但し飲酒、妄語の二戒は事によるべし、他の為善事には偽も可なるべき事、
一山賊追剥等に逢ば裸にて渡すべし、若殺害におよばゞ、首おのべて待べし、死て敵お取るまじき事、〈附〉四寸の小刀の外、刃お持間敷事、
一衣、食、居は、天道にまかすべし、当季の外、衣は可捨事、
一船賃、木ちん、茶代、少しもねぎるまじき事、
一中途にて乞凶非人に慈悲お加べし、かつ病人には所持の薬可与事、
一文筆所望なきに書まじき事、但し望む人あらば、貴賎お不撰、一言も否といふ詞出す間敷なり、自作の外、他作の文注、書く間敷事、
一一足も馬駕にのるまじき事、但不及山上の道は折によるべし、右の九箇条、仏神に誓ひ、心戒お定るものなり、若此意趣お破る心ざし出ば、即歩に立帰るべし、若病死する事あらば、行脚の日記と、此け条お古郷へ送給ふべし、
死て後尸の事は任他取(さもあらばあれ)置にては鳥狼
諸国旅宿衆中 産国勢州射和村大淀氏三千風判
既に行脚成就の上は、此事ひけらすもいらざる事なれど、かつは後世同気の行脚人、心づくべきかと、両紙お費せしになん、