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後撰和歌集
十九/離別
みちのくにへまかりける人に、火うち(○○○)おつかはすとて、かきつけける、
貫之
おり〳〵にうちてたく火の煙あらば心さすかおしのべとぞ思
あひしりて侍ける人の、東のかたへまかりけるに、桜のはなのかたに、ぬさ(○○)おさしてつかはしける、 よみ人しらず
あだ人のたむけにおれる桜花あふさかまでは散ずもあらなん〈○中略〉
しもつけにまかりける女に、かゞみ(○○○)にそへてつかはしける、 よみ人しらず
ふたご山ともにこえねどます鏡そこなる影おたぐへてぞやる、 しなのへまかりける人に、たきもの(○○○○)つかはすとて、 するが
しなのなるあさまの山もみゆなればふじのけむりのかひやなからん〈○中略〉
いせへまかりける人、とくいなんと心もとながるときゝて、たびのてうど(○○○○○○)など、とらするものから、たゝんかみにかきてとらする、なおばむまといひけるに、 よみ人しらず
おしと思心はなくてこのたびはゆくむまにむちおおほせつる哉〈○中略〉
とおき国にまかりける人に、たびのぐ(○○○○)つかはしける、かゞみのはこのうらにかきつけてつかはしける、 おほくぼののりよし
身おわくる事のかたさにます鏡影ばかりおぞ君にそへつる〈○中略〉
みちのくにへまかりける人に、あふぎ(○○○)てうじて、うたえにかゝせ侍ける、
よみ人しらず
別行道の雲居になりゆけばとまる心も空にこそなれ〈○中略〉
秋たびにまかりける人に、ぬさ(○○)おもみぢの枝につけてつかはしける、
よみ人しらず
秋ふかくたび行人の手向にはもみぢにまさるぬさはなかりけり