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兎園小説
十二
賀茂村の坂迎ひ 京 角鹿比豆流
伊勢大神宮広前に、太々神楽捧げ奉るとて、かの御社に春毎参詣する事、六十六国に残る処もなし、都の町々近き村里、老たるも若きも、かたらひつゝ、二十三十あるは百にも満てる人の、願はて家に帰る日、家族うからしたしきかぎり、逢坂山の水うまやに集ひ、待酒汲かはし宴おなす、是お坂迎といふ、こゝより家までかへるさ、迎の人と共に謡ひつれて、都の町くだりさわぎ行く事、引きもきらず、こおみる人大路に立ちつゞけり、三月廿一日、上賀茂の一郡松林の加茂塘おすぐるに、鞍馬口の乞食の児等いでゝ、銭お乞ふ事頻りなり、加茂村の百姓さか迎の日、唐坂といふ菓子お二つづゝあたへ、また人数こゝらなれば、菓子の代にあし一筋あだふるが、古き例なりとかや、