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土佐日記
それのとし〈○承平四年〉のしはすのはつかあまりひとひのいぬのときにかどです、〈○中略〉廿二日にいづみの国までと、たひらかに願たつ、〈○中略〉 廿七日、おほつよりうらとおさしてこぎいづ、〈○中略〉 廿八日、うらとよりこぎいでゝ、おほみなとおおふ、〈○中略〉 廿九日、おほみなとにとまれり、〈○中略〉 四日、〈○承平五年正月〉風ふけばえいでたゝず、〈○中略〉 九日のつとめて、おほみなとより、なはのとまりおおはんとて、こぎいでにけり、〈○中略〉 十日、けふはこのなはのとまりにとまりぬ、 十一日、あかつきに船おいだして、むうつおおふ、〈○中略〉 十七日、くもれる雲なくなりて、あかつきつく夜いとおもしろければ、船おいだしてこぎゆく、〈○中略〉夜やうやくあけゆくに、かぢとりら、くろき雲にはかにいできぬ、風ふきぬべし、みふねかへしてんといひて舟かへる、このあひだに雨ふりぬ、いとわびし、〈○中略〉 十九日、ひあしければふねいださず、 廿日、きのふのやうなれば船いださず、〈○中略〉 廿一日、うの時ばかりに船いだす、〈○中略〉 廿二日、よんべのとまりよりことゞまりおおひてぞゆく、〈○中略〉 廿三日、ひてりて、くもりぬ、このわたり、かいぞくのおそりありといへば、神ほとけおいのる、 廿四日、きのふのおなじところなり、 廿五日、かぢとりらのきた風あしといへば、船いださず、かいそくおひくといふ事、たへずきこゆ、 廿六日、まことにやあらん、かいぞくおふといへば、夜なかばかりより、船おいだしてこぎくる道にたむけする所あり、かぢとりしてぬさたひまつらするに、ぬさのひんがしへちれば、かぢとりのまうしてたてまつる事は、このぬさのちるかたに、みふねすみやかにこがしめ給へと、まうしたてまつる、〈○中略〉 卅日、あめかぜふかず、かいぞくは、よるあるきせざなりときゝて、夜なかばかりに船おいだして、あはのみとおわたる、よなかなればにしひんがしもみえず、おとこおんなからく神ほとけおいのりて、このみとおわたりぬ、〈○中略〉けふ海になみににたるものなし、神ほとけのめぐみかうぶれるににたり、けふふねにのりしひよりかぞふれば、みそかあまりこゝぬかに成にけり、いまはいづみのくにゝきぬれば、かいぞくものならず、〈○中略〉 六日、〈○二月〉みおつくしのもとよりいでゝ、なにはにつきて、かはじりにいる、みな人々おんなおきな、ひたひにておあてゝ、よろこぶ事ふたつなし、