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甲子夜話
三十
予〈○松浦清〉少年より東武往還の道中、多の人の旅行にも遇しが、その行装小々殊なることは有れど、まづは似たるものなり、備中にて薩州の息女、江都に上るに遇たり調度の長櫃幾箇も持行うち、飾著たるあり、其さま竹お立て、上に又横に結び、糸お張り、少き鼓、又くヽり猿などお下げ、竹の末三処には、紅白の紙お截かけにして、長く垂れたること、神幣の如し、或は紅の吹貫、小旗など付たるも有り、いと華やかなることにて、女子の旅装と見ゆる者なりき、〈東行筆記〉