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今昔物語
二十八
近江国篠原入墓穴男語第四十四
今昔、美濃の国の方へ行ける下衆男の、近江の国の篠原と雲ふ所お通ける程に、空暗く雨降ければ、立宿りぬべき所や有ると見廻しけるに、人気遠き野中なれば、可立寄き所無かりけるに、墓穴の有けるお見付て、其れに這入て、暫く有ける程に、日も暮て暗く成にけり、雨は不止に降ければ、今夜計は此墓穴にて夜お明さんと思て、奥様お見るに広かりければ、糸吉く打息て寄居たるに、〈○下略〉