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東海道名所記

いとおしき子には旅おさせよ(○○○○○○○○○○○○○)といふ事あり、万事思ひしるものは、旅にまさる事なし、鄙の永路お行過るには、物うき事、うれしき事、はらのたつこと、おもしろき事、あはれなること、おそろしき事、あぶなき事、おかしき事、とり〴〵さま〴〵也、人の心も、こと葉つきも、国により所により、おのれ〳〵の生れつき、花車なもあり、いやしきもあり、それのみならず、みちすがらには、海、川、山、坂、橋、平地、石はら、沙原、ほそ道、あぜ道、追分なんどとてこれあり、道のたすけには、大雪に山ごし、大水に川ごし、ふかき川に渡し船、のりかけに駄賃馬、あるいは歩にてゆく人のため、からじりの馬、籠、のり物、あるひは馬のなきときは、かち荷物のたすけもあり、しらぬ道には、あんない者あり、旅屋(はたごや)の遠き所には、店屋の餅団子、茶屋の焼餅、其外在所により家によりて、国の名物酒さかな、煮売、焼売色々あり、一日路すぎて、暮がたには、はたごやの宿、泊々これあり、〈○下略〉