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土佐日記
廿七日、〈○承平四年十二月〉おほつよりうらとおさしてこぎいづ、かくあるうちに、京にてうまれたりしおんな、こゝにてにはかにうせにしかば、このころのいでたちいそぎおみれど、なにごともいはず、京へかへるにおむなごのなきのみぞかなしびこふる、〈○中略〉 十一日、〈○同五年正月〉あかつきに船おいだして、むろつおおふ、〈○中略〉このはねといふ所とふわらはのついでにて、又むかしの人おおもひいでゝ、いづれの時にかわするゝ、けふはましてはゝのかなしがらるゝことは、くだりし時の人のかずたらねば、ふるうたに、かずはたらでぞかへるべらなるといふことお、おもひいでゝ人のよめる、
世のなかにおもひやれどもこおこふるおもひにまさるおもひなきかな、といひつゝなん、九日、〈○二月、中略、〉かくのぼる人々のなかに、京よりくだりし時に、みなひと子どもなかりき、いたれりし国にてぞ、子うめるものども有あへる、人みな船のとまる所に、いだきつゝおりのりす、これお見て、むかしのこのはゝ、かなしきにたへずして、
なかりしもありつゝかへるひとの子おありしもなくてくるがかなしさ、といひてぞなきける、ちゝもこれおきゝて、いかゞあらん、かうやうの事ども、うたもこのむとて、あるにもあらざるべし、もろこしもこゝも、おもふことにたへぬ時のわざとか、十六日、京にいりたちてうれし、家にいたりてかどにいるに、月あかければ、いとよくありさま見ゆ、〈○中略〉この家にてうまれしおんなごの、もろともにかへらねば、いかゞはかなしき、〈○下略〉