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平家物語

二代の后の事
故近衛の院のきさき太皇太后宮〈○藤原多子〉と申しは、大炊のみかどの右大臣公能公の御むすめなり、〈○中略〉主上〈○二条〉きさき御入内有べきよし、右大臣家にせんじおくださる、〈○中略〉御じゆだいの後は、れいけい殿にぞまし〳〵ける、〈○中略〉かのせいりやうでんの、ぐはとの御しやうじには、むかし、かなおかゞかきたりし、えんざんのあり明の月もありとかや、故院のいまだ幼主にて、ましませしそのかみ、なにとなき御てまさぐりの、ついでに、かきぐもらかさせ給ひたりしが、有しながらに、少もたがはせ給はぬお御らんじて、先帝のむかしもや、御恋しうおぼしめされけん、
おもひきやうき身ながらにめぐりきておなじ雲いの月お見んとは、そのあひだの御なからひ、いひしらずあはれにやさしき御ことなり、