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貞丈雑記
九/進物
一進物にのしお添る(○○○○○○○○)事、〈のしとばかりいふは非也、古はのしあはびと雲なり、〉古は大刀、馬、鎧、鞍、鐙、其外すべて進物に熨蚫お添る事は無之、さればのし包といふ物もなし、のし蚫お進物に添るは、後世のならはし也、当世にても太刀目錄などには、熨蚫おそゆる事なきは、古風の残りたる也、我家〈○伊勢〉に伝へたる熨蚫の包形は、京都将軍家の庖丁人、大草流の式三献の時、引渡しの膳にすゆるのし蚫の包形也、今当世進物に必のし蚫お添る風俗なれば、当家にても世のならはしにそむきがたき故、のしあはびお進物にそゆる時には、かの大草流の引わたしの包形お借用る也、古は進物にのしあわび添ざる事、古書お見て知べし、