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享雑の記
前集下
後妻打〈孝女花扇附す〉
つら〳〵戦国の侠気お推量るに、勇お好ども理に暗く、智お貴めども姦多し、目前の恥お恥として、始終の勝おおもはず、そが中にもおのづから賢不肖ありといへども、大かたはたがふ事なし、二百年前には、妻敵擊といふことありて、妻お人に窃れたる者、或は仕お辞し、或は産お破り、国々お偏歷して、姦夫淫婦お擊果すお、男子なりとおもひしとぞ、これ則目前の恥お恥として、始終の勝おおもはず、毛お吹て疵お求め、恥に恥おかさぬるもの歟、