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栄花物語
五/浦々の別
そち殿は、〈○藤原伊周、中略、〉つくしにおはしつきたるに、そのおりの大弐は、有国朝臣なり、かくと聞て御まうけいみじうつかうまつる、あはれこどの〈○伊周父道隆〉の御心の、有国おつみもなくおこたる事もなかりしに、あさましく無官にしなさせ給へりしこそ、よに心うくいみじと思ひしかど、有国ははぢははぢにもあらざりけり、哀にかたじけなく、思ひがけぬかたにこえおはしましたるかな、おほやけの御おきてよりは、さしましてつかうまつらんとすなどいひつゞけ、ようづにつかうまつるお、人づてにきゝ給ふも、いとはづかしう、なべて世中さへうくおぼさる、御せうそこ我子のよしなりして申させたり、思がけぬかたにおはしましたるに、京のこともおぼつかなく、おどろきながら参りさぶらふべきに、九国の守にさぶらふ身なれば、さすがに思のまゝにえまかりありかぬになむ、今まで候はぬ、なに事もたゞおほせごとになむしたがひつかうまつるべき、よの中にいのちながくさぶらひけるは、わがとの〈○藤原兼家〉の御すえにつかうまつるべきとなんおもひたまふるとて、さま〴〵のものどもひつどもにかずしらず参らせたれど、これにつけても、すゞろはしくおぼされて、きゝすぐさせ給ふ、