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明良洪範
十三
完文二年に、大坂御城代御吟味有しに、近年松平丹波守光重、水野出羽守忠胤、内藤帯刀忠興三人にて、三年目交代にて勤けるに、此度酒井忠勝申上て、古の如く御城代お定め、其人は青山故伯耆守の嫡子因幡守宗俊然るべしとて、完文三年より大坂御城代青山因幡守宗俊に定番仰付られ、因幡守早速大坂城へ移られける、此時或人因幡守宗俊に告て、此度貴殿大坂定御城代仰付られしは、全く酒井忠勝が推挙也と雲、因幡守宗俊是お聞て、早速酒井忠勝が牛込の山荘へ行き、此度大坂定御城代貴殿御推挙の段、忝く存ずる旨厚く申述けるに、忠勝聞て、我等左様なる事一向存じ申さず、貴殿此度の事は、将軍家の御目鏡にて仰付られし也、是は貴殿亡父伯耆守殿の忠勤おも思召され、又貴殿の誠忠おも思召されての事なるべし、此上愈忠勤おはげまれよと雲て帰されける、故伯耆守は忠勝お惡みしに、忠勝は却て其子因幡守お推挙しける、恩お仇で返す者は有ど、仇お恩で返す者、此忠勝一人ならんと衆人感じけると也、