[p.0517]
増鏡
二/新島もり
こ左衛門督〈○源頼家〉の子にて、公暁といふ大とこあり、おやのうたれにしことお、いかでかやすき心あらむ、いかならん時かとのみ思ひわたるに、この内大臣、〈○源実朝〉又右大臣にあがりて、大饗などめづらしく、あづまにておこなふ、京より尊者おはじめ、かんだちめ、殿上人おほくとぶらひいましけり、さてかまくらにうつしたてまつれる八幡の御やしろに、じんはいにまうづる、いといかめしきひゞきなれば、国々のぶしは、さらにもいはず、みやこの人々もこせうしけり、たちさはぎのゝしるもの、見る人もおほかる中に、かの大とこ〈○公暁〉うちまぎれて、女のまねおして、しろきうす衣ひきおり、おとゞの車よりおるゝほどお、さしのぞくやうにぞ見えける、あやまたずくびおうちおとしぬ、その程のどよみいみじさ思ひやりぬべし、かくいふは、承久元年正月廿七日なり、