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徒然草

宿河原といふ所にて、ぼろ〳〵おほくあつまりて、九品の念仏お申けるに、外より入くるぼろ〳〵の、もし此御中に、いろおし坊と申ぼろやおはしますと、尋ければ、其中より、いろおしこゝに候、かくの給ふはたぞとこたふれば、しら梵字と申者なり、おのれが師、なにがしと申人、東国にていろおしと申ぼろにころされけり、と承りしかば、其人にあひ奉りて、恨申さばやと思ひて、尋申也といふ、いろおしゆゝしくも尋おはしたり、さる事侍りき、こゝにて対面し奉らば、道場おけがし侍るべし、前の河原へまいりあはん、あなかしこ、わきざしたち、いづかたおもみつぎ給なあまたのわづらひにならば、仏事の妨に侍るべしと、いひさだめて、二人河原へ出あひて、心行ばかりにつらぬきあひて、ともに死にゝけり、〈○下略〉