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古事談
三/僧行
神蔵寺上人覚尊、無動寺仙命上人は、同時之人也、覚尊常に出洛して、知識勧進しけるお、仙命は無由事し給物かなと雲て、人の信施お不受とて、隻一人房に籠居して、智得と雲ける法師に、往来一部お預て、日に一度時おのみ指入ければ、食して不断念仏おのみし給けり、白川院御吐吋、女御之御座しけるが、有智徳行の貴僧お供養せばやと思召て、当時誰力貴きと御尋ありけるに、人々申雲、無動寺仙命上人にすぎたる聖、不可有候、但人の施お一切不受候雲々、女御聞召智徳之子細、智得お召寄て、令謁給て、袈裟お一給て、是女が志の様にて、構て上人に奉ぜよと被仰ければ、智得賜袈裟、不慮に人の給て候、己は可懸も候はぬうへに、御袈裟のやれて候へばとて上人に令献けり、仙命思様は、かヽる袈裟、此小法師にとらすべき様無之、我に志ざすなめりとて、呪願候て、三世諸仏得給とて、懸作たる房なれば、谷底へ投入畢ぬ雲々、又隣房の人、大和瓜お儲て食けるが、よかりければ、切さしたる半分お持向て、是食給へ、殊勝なればとて進たりけるも、食する様にて谷へ投入給けり、神蔵寺の上人先立遷化して、仙命の夢に無由と、制止給し事おきかで、下品下生に生て候也と示けり、仙命はたしかに上品上生に生れたるよし示也、