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十訓抄

中納言通俊子に、世尊寺阿闍梨仁俊とて、顕密知法にて貴き人おはしけるお、鳥羽院に候ける女房、仁俊は女心ある者の空聖立けると申けるお、かへりきゝて口おしと思ければ、北野に参籠して、此恥おすゝぎたまへと祈請して、
哀とも神々ならば思ふらん人こそ人のみちはたつともとよみければ、其女房赤き袴ばかりお腰にまきて、手に錫杖お持て、仁俊に空ごと雲付たる報ひよと雲て、院の御所に参て舞くるひけり、浅ましと思召て、北野より仁俊お召て見せられければ、神恩のあらたなるお感じて、涙おながして、一度慈救呪お満給ひければ、女房本心に成けり、いみじくおぼし召て、うすゞみといふ御馬おぞたびたりける、