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源平盛衰記
十七
待宵侍従附優蔵人事、
抑待宵小侍従と雲は、元は阿波の局とて、高倉院の御位の時、御宮仕ひして候けり、世にも貧き女房にて、夏冬の衣更も便お失貧人なり、さすが内の御宮仕なれば、諸幽なる事の悲しさに、広隆寺の薬師に参て、七箇日参籠して祈申けれども、指たる験なし、先の世の報おば知らず、今の吾身お恨つヽ、世お捨て尼にもならばやと思て、仏の御名残お惜み、今一夜通夜しつゝ、一首の歌おぞ読たりける、
南無薬師憐給へ世中に有そづらふも病ならずや、と詠じつヽ、打まどろみたりけるに、御帳の中より、白き衣お賜と夢に見て、末憑しく思つヽ、又内へ参て、世にほのめきける程に、八幡の別当幸清法印に被思て、引替はなやかにありければ、君の御気色も人に勝たりけるに、〈○下略〉