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今昔物語
二十
能登守依直心息国得財語第四十六
今昔、能登守と雲ふ人有けり、心直くして、国お吉く治めけるに、又国の内の仏神お崇め、勤に仕ければ、国内平かにして、雨風時に随て、穀お損する事無くして、造りと造る田畠は楽く生ひ弘こりて、国豊かなれば、隣の国の人も来り集て、岡山おも不嫌ず造り弘ぐれば、国司極めて微く富て、徳並び無し、而れば小国也と雲とも、吉く治る時は、此く有ければ、猶国の内の仏神お可崇き者也けりと聞き、と雲へども、此く仏神の仕る守の無ければにや、他の国は此くも不聞、而る間守郡に行て田畠可作き事は何か為ると巡て見るに、共に郎等共多くも不具せず、隻物雲ひ可合き者四五人許お具したり、食物は郡に不被知ずして、旅寵お具したり、前々国司郡に入には、郡の司可然き曳出物など為るに、此は然か無くて、守の雲く、其れ得るは賢き事なれども、其れは不可為ず、隻我任には田畠おだに多く作くらば、国人の為にも、可賢に、然て使お不得して、官物お疾く可成き也と雲ひ廻らかしたれば、国人共に之れお聞て、手お作て喜て、喜きまヽに、田畠多く作て、各身豊に成れば、露物不惜ず、成し集むれば、守も大に富にけり、