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大鏡
五/太政大臣兼家
対の御方ときこえし御はらのむすめ〈○藤原妥子、中略、〉三条院も、にくからぬものにおぼしめしたりき、〈○中略〉あやしきことは、源宰相頼定のきみかよひ給ふどよに聞えて、さとにいで給ひにきかし、たゞならずおはすとさへ三条院きかせ給ひて、この入道殿〈○道長〉にさる事のあなるは、まことにやあらんとおほせられければ、まかりて見てまいらんとておはしけれは、れいならずあやしくおぼして、木丁ひきよせ給ひけるお、おしやらせ給へれば、もとはなやかなるかたちにいみじうけさうし給へれば、つねよりもうつくしう見え給ふ、春宮にまいりたりつるに、しかじかおほせられつれば、見たてまつりにまいりつるなり、そらごとにもおはせんに、しかきこしめされ給はんが、いとふびんなればとて、御むねおひきあけさせ給ひて、ちおひねり給へりければ、御かほにさとゝはしりかゝるものか、ともかくもの給はせで、やがてたゝせ給ひぬ、〈○中略〉この御あやまちより源宰相、三条の御時は、殿上もし給はで、地下のかんたちめにておはせしに、この御時にこそは殿上し、けびいしの別当などになりてうせ給ひにしか、