[p.0658][p.0659]
常山紀談
十一
東照宮何れの時の軍にや、久世三四郎宣広、坂部三十郎広勝、二人お見物に出し給ふ、坂部は勇める色あり、久世は気色甚悪う見えしかば、側より笑ふ人の有しに、東照宮、坂部は天性の剛の者なり、久世が及ぶべきにあらず、されども久世は人に劣て、生甲斐なしと思ひ定めたる者也、其故に務てはげむゆえ、心お労して其けしき顕れて見ゆ、今見よ、久也は坂部よりも敵近く進み行て見て帰らむ物おと仰ける処に、二人帰り参りたるが、果して御詞の如くなりけり、東照宮坂部は生得の勇お頼みにして解あり、久世は励むおもて味ひ深しと、感ぜさせ給ひけり、