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大鏡
三/太政大臣頼忠
太政大臣頼忠、〈○中略〉故中務宮よしあきらのみこの御むすめのはらに、御むすめ二人、男一人おはしまして、おほひめ君〈○遵子〉は円融院の御時、女御にて中宮と申しき、御年廿六〈○註略〉みこむまれおはせず、四条の宮とぞ申めりし、〈○中略〉かの大納言殿〈○藤原公任〉無心の言一度ぞのたまへるや、御いもうとの四条の宮、后にたヽせ給ひて、はじめて内へ入りたまふに、西洞院のぼりにおはしませば、東三条のまへおわたらせ給ふに、大入道殿〈○藤原兼家〉も故女院〈○詮子〉もむねいたくおぼしめしけるに按察の大納言殿〈○公任〉は后の御せうとにて、御心ちよくおぼされけるまゝに、御馬おひかへて、この女御〈○詮子〉は、いつか后にたち給ふらんと、うち見入れて、のたまへりけるお、殿おはじめたてまつりて、御ぞうやすからずとおぼしけれど、おとこ宮〈○一条〉おはしませばたけくぞ、よその人々も、やくなくも、の給ふかなときゝ給ふ、一条院位につかせ給へば、又女御后にたゝせ給ひて、内に入り給ふに、この大納言殿、啓のすけにつかうまつり給ふに、出車よりあふぎおさし出して、やゝ物申さんと、女房のきこえければ、何事にかとて、うちより給へるに、弁の内侍かおおさしいだして、御いもうとのすはらの后は、いづくにかおはすると聞えかけたりけるに、先年の事おおもひおかれたるなりけり、みづからだにいかにとおぼえつる事なれば道理なり、なくなりぬる身にこそとおぼえしかとの給ひけれ、されど人がらよろづに、よくなり給ひぬれば、ことにふれてすてられ給はず、かのないしのとが〈○とが原作おり、拠一本改、〉なるにてやみにき、