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平家物語

鼓判官事
法皇より木その左馬のかみ〈○義仲〉のもとへ、らうぜきしづめよとおほせ下さる、御つかひは壱岐の守朝親が子に、壱岐の判官ともやすと雲者也、天下に聞えたるつゞみの上手にて有ければ、時の人つゞみ判官とぞ申ける、木そたいめんして、まづ院の御返事おば申さで、そも〳〵わ殿おつづみ判官と雲は、よろづの人にうたれたうたか、はられたうたかとぞとふたりける、ともやす返事におよばず、いそぎ帰り参て、よしなかおこのものにて候、はやくついたうせさせ給へ、隻今朝、敵となり候なんずと申ければ、法皇やがて思召立せ給ひけり、