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会津陣物語

上杉取立香指原新城事
前田慶次郎は加賀大納言利家の従弟なり、無隠兵なれども不断の行跡おどけ者故、加州お立除浪人たり、此者の事語るに言なく、記すに筆に及ばざる事どもなり、景勝〈○上杉〉へ奉公に出る時は、法体にて穀蔵院ひよつと斎と名付、著物二幅袖にして長袖なりと称す、白四半に大ふへん者と書たり、〈○中略〉白四半に大ふへん者と書たるお、上杉家中平井出雲守、金子次郎右衛門咎て、謙信以来武士の花の本と、天下にて唱ふる当家中に、押出たる大武辺者とは、中々指物に指まじ、踏折て捨んと哼りけるお、慶次は目もあやに打笑ひ、さすが田舎衆なり、文字の仮名遣ひ清濁弁へられず、我永浪人にて貧故に、大ふべんものと申事なり、へんおば清て読み、ふお濁りて読まる故に、皆皆腹お立らる、我指物は大ふべん者と申て、大に笑ければ、上杉家中の士ども、興おさましけるとかや、