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太閤記

秀吉お讒しけるお信長公用い不給事
翌日はや義昭公の御館へ参、〈○中略〉御目見致されけり、御懇の御意なれば秀吉忝被存、向後御用の義御座候におひては、被召寄被仰付候やうにと、御気色お伺ひ奉り、何事も無滞事裁判有しかば、其威勢弥増、其聞え火く、古より無賢不省、入朝見嫉と雲伝るごとく、旧臣多く忌嫉て、譖訴にさゝへしか共、信長公明君なれば、少しも聞入給ず、さし出とは、かの行事、並威お振事とは、兼て思ひまうけ残し置し事なれば、今更可改之に非ず、運計策励武勇、欲平治国家、則朝暮無閑暇事、女は不知之乎と白眼給へば、讒者及赤面退出せしより後は、飛馬の前に塵お除とぞ見えし、