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古今著聞集
十五/闘争
静賢法印のもとに、馬允なにがしとかや、ゆゝ敷力つよく、けなげ有男有けり、或時こともあらぬ小冠と、双六おうちける程に、口論おしあがりて、此小冠お引寄て、へその下おつきてげり、柄口迄つきたりければ、いきごとすべくもなかりけるに、小冠者少もおどろきたるけしきもなく、やがて敵にしがみつきて、刀おうばひ取て、さしも大力の大男お押ふせて、うへに乗て刀おさしあてゝ、既にころしてんとしけるが、いかゞ思けん、先わが腹おかき出して、きずお見て雲様、女これほどに成たれば、害せん事滞有べからず、但我きず痛手にて必死すべき身也、功徳に女か命たすけん、最後に罪つくりてよしなしと雲て、事なくておはりぬ、さて法印の前に行て、かゝる事こそ候つれとて、事の次第始めより申て、やがてたふれ臥て死にけり、〈○下略〉