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明良洪範続篇

佐竹家の浪人某十雲者、かの丹前風に出立ち、長刀お指歩き、往来の人などに争論おしかけ、其者に誤まらすお面白しとて、武士町人の差別なく、論おしかける也、猶此者が自慢にて、やヽともすれば、合手の者の腕腰お痛めなどする故、人々恐れけるお、猶面白がりてあばれ歩く也、太田太郎左衛門其事お聞き、惡き奴哉、往来の者の妨げおする奴、我出合なば取りひしぎ呉んと、日々遠近往来しけるに、かの者とおぼしき者行き当り、忽ちむなぐらお取り惡口す、太郎左衛門其手おしかと捕へて、此頃往来の者の妨げおする浪人者ありと聞けり、大かた其方ならんと雲ながら、其手お子じ上げけるに、骨折れ肘のつがひ放れ、手きかず成りしと也、