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俘囚は、本と是れ王民にして、夷賊の為に抄略せられて、遂に賤隷と成りたる者お謂ふなり、其性狼戻にして、数々辺境に冠したりしかば、朝廷頻りに之お懐柔して、以て復び王化に浴せしめ、又諸国に移配して以て、其俗お変じ、華に移さしめんとせり、聖武天皇天平八年、陸奥出羽両国の俘囚に、始て位お賜ふ、爾来其勲功お賞し、節義お嘉して、位階勲等お授け、或は俘囚の賤号お除きて姓お賜ひし者鮮からず、俘囚も亦能く其教喩に順ひ、王化に帰して、新に公戸に編入せられんことお請ふ者ありき、然れども仍ほ其野心お悛めずして、屢々反乱お為しし者も亦鮮しとせず、後冷泉天皇の時、阿倍頼時及び其子貞任の反せしが如きは、其最たるものにして、朝廷源頼義おして之お誅伐せしめられたり、