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夷俘は、原と夷種にして、官軍の為に捕獲せられたる者お謂ふなり、是れ亦俘囚と同じく諸国に移配せられたりしが、屢、朝憲に背きて、百姓お凌突し、婦女お姦略し、或は牛馬お掠取せし事あり、是お以て常に国司おして之お教喩せしめたれども、猶ほ已まざりしかば、嵯峨天皇弘仁三年、其同類の中、心性事に堪へて、衆の推服する者一人お択びて、夷俘長と為して、捉搦お加へしむ、又国司朝旨に乖きて、優恤お加へず、事お処する遅緩なるに由りて、夷俘の反乱お来せることありしかば、翌年更に諸国介已上一人お簡びて、夷俘専当と為して、夷俘の車干に預らしめたり、