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古今著聞集
十二/偸盗
大殿小殿とて、きこへたる強盗の棟梁ありけり、大殿は後鳥羽院の御時からめられけり、小殿は高倉判官章久が本へ行ていひけるは、日来年来からめかねて、あなぐりもとめられ候小殿と申強盗こそ、思ふやう有て参て候へ、はやくうけとらせ給へといふ、章久、まことしからず覚ながら、おろ〳〵子細おとへば、〈○中略〉小殿が雲やう、年ごろ西国の方にて海賊(○○)おし、東国にては山たち(○○○)おし、京都にては強盗(○○)おし、辺土にてはひきはぎ(○○○○)おして過候つる也、かゝる重罪の身お受候ぬれば、此世にても安き心候はず、夜も安くねず、昼も心打くつろぐ事なし、世のおそろしく、人のつゝましき事、かなしき苦患にて候也、扠も一期事なくて有べき身にても候はず、ついには定てからめ出されて、はぢおさらし、かなしき目おこそ見候はんずれ、〈○下略〉