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倭訓栞
前編二十一/奴
ぬすびと 倭名抄に偸児お訓ぜり、盗人の義、金葉集によめり、せこ盗人牛祭文に見ゆ、今小ぬす人といふが如し、抄もよめり、東坡詩に、開戸夜無抄と見えたり、抄略の義也、周礼注に、鳥鳶喜抄盗便汗人、 枕草紙に、いみじきぬす人かなと書るは、隻人ならずとほめんとて、されていふ辞也、禅語に老賊といへるが如しといへり、今もしかり、人お罵ていふ詞に、大盗人といふは、竹取物語に見えたり、袖にくらぶといふ俗語は、衆妙集に、
一枝の花ぬす人となりにけり袖にくらぶの山の帰るさ、盗人に鑰といふ俗語は、史記に、藉寇兵而齎盗糧者也と見えたり、盗人の脚といふ草は天麻也、仙台の称也、