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古事記伝
三十四
抑今此賎夫お咎めて、獄に入れむとせしは、他人の牛お盗来て殺さむとするものと思へるなるべし、盗と雲ことは見えざれども、入山谷おあやしみたるは、盗来つるものと思へりと聞ゆるなり、然るに盗めることおば雲ざるは、盗むよりも、殺す方の罪の重き故なるべし、賊盗律に、凡盗官私馬牛而殺者徒二年半〈馬牛軍国所用、故与余畜不同、〉と見えて、漢国の律も同じ、是も盗と殺とお合せたれども、殺〈す〉方の罪お重しとせるなり、何〈れ〉の国にても、故なく牛お殺すおば、上代より罪とぞしたりけむ、〈故律にも然定められたるなり〉