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古今著聞集
九/武勇
強盗入たりけるに、貞綱は酒に酔て、白拍子玉寿と合宿したりけり、思ひもよらぬに、ね浙に打入たりければ、貞綱太刀おぬきて打はらひて、玉寿お引立て後苑へしりぞきて、檜垣より隣へこして、我身も共に逃にけり、其事世に聞えて、強盗に逃たるわろしなどさたしけるお、貞綱かへり聞て、今より後成共、強盗にあひて命うしなふまじ、幾度も君の御大事にこそ命おばおしむまじけれと、いひけるにあはせて、和田左衛門尉義盛が合戦の時、昼は紅のほろおかけて黒き馬に乗、夜るは白きほろおかけて、葦毛の馬に乗て、軍のさきおかけける、誠に一人当千とそ見へける、日来の詞に合てゆゝしくそ侍りける、ついに組合者なかりければ、自害してけり、