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笈雉随筆

水無瀬宮
文禄の頃、石川五右衛門とて、世に聞へし盗賊有けるが、手下の者共お具し、此御館に押入らんとするに、神霊のおはすればにや、得忍び課せざりしかば、無念に思ひ、勇気お振ひ押入らんとするに、忽ち身体縮んで、此中門の内へ入事能はず、流石の強盗なれ共、天位の高きに驚き、後代のしるしにとて、自ら手の形お墨にぬり、此御門の柱に残し置ぬ、恐れても恐るべき事お、其跡今に右の方の御門柱の上に現然たり〈○下略〉
○按ずるに、宝永三年、石川五右衛門の百年忌お修せし事は、礼式部仏祭篇百年忌条引く所の百一錄に在り、参照すべし、